僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
僕の実家の近くに、一軒の八百屋があった。その八百屋は『杉本青果店』というごくありきたりの名前だった。その八百屋では、おそらくは杉本夫妻であろう中年二人の男女がただ淡々と働いて、野菜を売っていた。僕は登校の際にいつも、その前を通りかかったものだ。僕が小学生の時も、中学生の時も、そして高校生の時も。僕が年を重ね、大人に近づいている間もその八百屋の夫妻はずっと、時が止まったかのようにそこで野菜を売り続けていた。二人は来る日も来る日も、そのみすぼらしい店の先で野菜を売り続けていた。野菜は大抵かごに盛られていて、そしてそれは驚くほどの安値だった。そして僕はその八百屋にはほとんど何の興味も覚えず、またその二人
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