ヤマダヒフミの消失/yamadahifumi
彼は「ヤマダヒフミ」という名前でネット上に投稿していた。投稿する内容は、詩、小説、批評などであり、彼は自分で文学に対するある程度の造形があるのだと考えてた。彼は日常生活では、桐野龍一という一人の薄給のサラリーマンだった。彼は月に二十万円いかない給料で、五万円のアパートに一人暮らししていた。彼には恋人もおらず、また友人もほとんどいなかった。彼は先月、三十才になったばかりで、彼自身その事を痛切に感じていた。三十というのは、人間にとって節目の年である。それは、歴史からこう宣告されるようなものだ。「お前ももう若くはない」。
桐野は満たされた生活を送ってはいなかった。それは
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