満足/はるな
 

退院の日は花冷えがした。うちにかえってきたら隣家の夫婦がやってきて、それから、いとしい宝籤は(宝籤は母と父が飼っている黒い犬だ)、尻尾を―先端だけがほんのわずかに白い尻尾―ちぎれそうに振って鳴いてくれた。花ちゃんはすうと眠ったまま起きなくて、庭の、れんぎょうの花の散る黄色。

病院では、大部屋だった。寝ているようにと言われて、同室のひと同士がしゃべる声や、いろいろな見舞客の―ほとんどが患者の夫か、母親―訪れる声をきいてひまをつぶした。花ちゃんに会うための授乳室(または新生児室)のとなりには未熟児室があって、そちらはいつもカーテンがひいてあってうす暗く、わたしはそこへ入ってはいけないのだった
[次のページ]
戻る   Point(5)