【小品】もういくつ寝ると/こうだたけみ
正月なんてとっくに過ぎて豆まきもひな祭りも終わったけれど、幼い頃お正月前によく歌ったあの歌を、小さな声で何度も何度も口ずさみながら歩く。私は、わずかに何かを期待していた。
「もーいーくつねーるーとー」
ふいに左肩を叩かれた。おとなしく左側を向いたらつっかえ棒をされるに決まっている。私は立ち止まると、叩かれたほうとは逆の右側を振り向いてやった。そこに、のっぺりとした顔があった。
「なぜみぎをむいたの?」
平板な声でしゃべるその顔には見覚えがあった。よくよく見たことがあるけれど誰だったか。そうだ、これは私の顔だ。気づいたとたん、声をなくして口をパクパクさせる私を見て顔は言った。
「くち
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