【小品】囚われ/こうだたけみ
 
 急な坂道の途中で立ち止まる人のように、左半身を下にして斜めに傾いでいる男と目が合った。あっと思って目を伏せたがもう遅い。空も電柱も道路もぐるりと回転して、私が斜めになっていた。
「あなた、斜めですね」
 男は、私を犠牲にすることで真っ直ぐに立てるようになった男は、自らの不幸を手渡す人を見つけてほくそえむような悪い顔をした。私が何も答えられないことを確認すると、さらに満足げな笑みを浮かべてゆっくりと背を向ける。
 待って! 何か忘れていることはないか、私は考えを巡らせる。両手に提げた買い物袋の中身はなんだっけ? ナマものなんて買っていなかったかしら。牛乳と納豆が入っているのは確かだけれど、も
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