「抱かれた月はちぎれて」/宇野康平
年の末が迫る満月の夜の事。湖に一人、世を恨み、目の前に映る
美しき月を妬む病弱な青年がいた。細い身体に合わせたかのよう
に華奢なフレームをした眼鏡の鼻当てを、クイと指で動かして、
青年は前々から用意した口ぶりでセリフを口にする。
「月よ。水面に抱かれ惰眠を貪る月よ。そなたはまぎれもなく月
であるが、真の月ではない。水に抱かれた月の、弱きことを私は
知っている。それを今宵、証明しよう。」
青年は足元の小石を拾い。狙いすまして、月の丁度中心に入るよ
うに投げる。
フー、チャポン
チャポン
チャポン
「フフ、フフフ、フハハハハ。それ見たことか」
月に
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)