「抱かれた月はちぎれて」/宇野康平
月に吸い込まれていった小石が姿を消し、その中心から波が規則
的な動きで広がっていく。月はちぎれようとしていた。
常に、美のシンボルと言わんばかりにただ、そこに存在する円描
くものは、その形を乱した。しかし青年は目論みを誤算したこと
に、直ぐに気づいた。
なんと、波に崩れいく月が、華を咲かせたかのように美しい。青
年は苦行の断食を抜け、雨林の中、白連愛でる仏陀の姿が頭に、
情景として浮かんだという奇跡に自らを失っていた。
我を忘れて、見惚れている自分の頬を数度叩き、歯ぎしりの鈍い
音が鼓膜を揺さぶるころ、踵を返して砂利に足を取られながら青
年は湖を後にした。
《劣の足掻きより:http://mi-ni-ma-lism.seesaa.net/》
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