新宿の幽霊たち (「センテンツィア」改題)/室町 礼
 
空がゆっくりと落ちてきて夜になると闇が呼びか
けるように地の底から光の洪水が押し寄せる。そ
の光の海と、路上のダンボールハウスの浸透圧が
重なる時刻、一艘の小舟が歌舞伎町のJRガード
下を流れるようにくぐる。たちまち光の泡が押し
寄せ〈かれら〉はだれからもみえなくなる─。

鸚鵡貝にみたてた、アスファルトと鉄のオペラ座
。その地下道に一羽の鴉がいる。飛べない羽をた
たみ、この一年、ずっと爪先をみている。失恋し
た元プロレスラーがいくあてもなく足音を響
かせて通る。正気を失ってしまった哀れな肥満体
の男は粗相(そそう)をした女優のように内股で歩いている。
口からどろり
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