新宿の幽霊たち (「センテンツィア」改題)/室町 礼
ろりと灰色の影を吐いた不動産屋の老人
は老人斑の浮いた禿頭を断頭台に乗せるように伏
して壁際で酔い潰れている。片脚のない中年女が
地下道の出口を探している。首の腱を針金のよう
に張り「あ」音と「い」音を間欠的に交互に突き
上げながらもと来た道をいざりながらさまよって
いる。粗末な服と同じくらい粗末な皮膚は黄ばん
で干からびている。瞳だけが朝露のように透明で
うつくしい他は。
墓石がそびえたつ地表には無数の数字たちが笑い
さざめきながら革靴やハイヒールを履いて交信し
、小さなパネルに収斂されていく。それを人工衛
星が回収し、支払い能力の多寡に換算して地表に
送り返す。
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