引き潮/HAL
 
干潮のなかに私は立ち
潮のなかに流されてしまったものを
ひとつひとつ視ようと眼を凝らすが
衰えた視力で捉える事はできず
曖昧な記憶に縋って其れらを視ようとする

突然 消えて逝ってしまったひとびと
ゆっくりと消えて逝ってしまったひとびと
別れの一言もなく通り過ぎ去ったひとびと
彼らもまたこの引き潮に捉えられたのだろうか

潮が絡めとるものは淡いものや濃密なもの
そしてそのいずれにも属さぬものたち
幼い夢 儚い希み 強い情念 憐れな欲望
小さな呟きかのような数々の歌 
孤独を綴ったか細い言の葉
生を詠み死を悼み その後に訪れる諦観と虚無

飢餓の苦しみを自らが引き
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