引き潮/HAL
引き起こしたことすら想像できず
砂上の楼閣の頂きに立つものらは
正義を振り翳し挙げる声を粉砕し
声なき声も力で掻き消す愚鈍愚昧
殺戮を祇園精舎の鐘の声に耳を塞ぎ非情すら覚えぬ無知蒙昧
その腐敗する世界に対する絶望にも酷似した無力感
やがて私にも来ることは感知はしていたが
いざこの引いてゆく潮に立ってみると
産まれ故郷への海への誘いの強さに感嘆を覚える
足元の砂を残り少ない力で捉え踏ん張り
潮の流れに逆らいつつもからだは揺らぎ
改めて己が非力を痛感する
しかしいつか私はその潮に引き込まれ
ゆっくりとそのなかに沈みゆくだろう
干潮が満潮となることは二度とないのを知りながら
未だ消え去らぬ煩悩を友としながら
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