闇の獣/山人
 


おぼろ月の夜
一日のためいきが霧となって森を覆っている
初夏の日差しにうたれた葉は
産毛をひらき 月のひかりを浴びている

森の奥
鼻を濡らした一頭の獣が立つ
におい立つ皮膚に 脂ぎった獣毛
土を押し込むように肉球を圧する

かすかな気配
ひそかに 闇の隅をこする生き物がいる
新たなる命の光源が点滅する
葉は風をよび 毛羽立ち 鋸歯はさざなみ しずくはふるえる 
一片の葉の舞い、
はじけたバネが月夜に放物線を描く、線はいざなう
葉を蹴散らし
絞り込んだ筋肉で柔らかい肉を羽交い絞めする
濁音が回転しつづけると骨を揺さぶる音源が土を震わせ
体液は闇に沸騰す
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