闇の獣/山人
騰する
胸の反復がしだいに薄れ
吹き出しのような息がひとかたまり
土ぼこりの上に落ちた
まなこを一巡させ あたりをうかがう
喧騒の破片がふわふわと漂い知ると
闇の獣は新たなる踏み込みで肉球を地面に押しつける
闇は反転する
月はひかりをとりもどし 新しい闇を造成してゆく
体腔の内容物をすすりこむ音と
骨を噛み締める音
それらの音と 葉のささやきが
闇の純度を増してゆく
しだいに獣に埋めこまれた充足が 押し詰まった空気をゆるめ
やがて獣は木の葉に尾を滑らせるように
時折あたりを警戒し闇に消えた
2012-03-27
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