[765]ハァモニィベル[2019 10/01 23:26]


《望遠鏡》

帰路は必要な電車に乗るそのひとの眼に、
小一時間ほどの車窓の景色が映っていた。
ながめながら 薄れてゆく その風景は、
新しく建設中の高層の建物の群れ。
時折、トンネルが、
今日いち日働いたことごとを思い出させる。

電車を降り
どこへいくのだろう

感覚もない蝙蝠がたどる様な
複雑な軌道を通って

巣に帰るつばめのように
クツを鳴らして飛んでゆく

そのひとの感覚がだんだんと濃くなってゆく

しゅんとひゅんと飛んでゆく
「我が家」を思い描いて

変わらない今日の彼方に

あったのか
思い出せない
そこに

何が
以前のままでいる、
のだろう



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