[15]佐々宝砂[2005 04/24 02:37]★2

なにをほしさに呼ばへるわれぞ
ゆくゆく葉うらにささくれて
指も真紅にぬれぬれぬ。
なほもひねもすはしりゆく
草むらふかく忘れつる
洋銀の皿をたづね行く。
わが哀しみにくるめける
ももいろうすき日のしたに
白く光りて涙ぐむ
洋銀の皿をたづねゆく
草むら深く忘れつる
洋銀の皿はいづこにありや。

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「月光と海月(くらげ)」

月光の中を泳ぎいで
むらがるくらげを捉へんとす
手はからだをはなれてのびゆき
しきりに遠きにさしのべらる
もぐさにまつはり
月光の木にひたりて
わが身は玻璃のたぐひとなりはてしか
つめたくして透きとほるもの流れてやまざるに
たましひは凍えんとし
ふかみにしづみ
溺るるごとくなりて祈りあぐ。

かしこにここにむらがり
さ青にふるへつつ
くらげは月光のなかを泳ぎいづ。


#岩波文庫「萩原朔太郎詩集」
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