[13]吉岡孝次[2005 02/11 17:20]★1
 倦(う)んだ病人
                 伊東静雄

夜ふけの全病舎が停電してる。
分厚い分厚い闇の底に
敏感なまぶたがひらく。
(ははぁ。どうやら、おれは死んでるらしい。
 いつのまにかうまくいつてたんだな。
 占めた。ただむやみに暗いだけで
 別に何ということもないようだ。)
しかしすぐ覚醒がはつきりやつて来る。
押しころしたひとり笑い。次に咳き。


#桑原武夫・富士正晴編『伊東静雄詩集』(彌生書房)より
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