[520]川村 透[2009 02/22 13:35]★1
ついた子どものようにただ、無力だった。
2.
夢の中で、僕はツタンカーメンのように梱包されたまま手術を受けた。夢の中で夢を見ていたのかもしれない。僕は、赤く開かれてた。意識が消えてゆく。
目覚めた。
梱包が解かれた僕の前に父がいて、母が笑っている。父に手をのばすと、おどけたようによろめいて見せて、「こんなに元気になったからもう大丈夫」って感じで、笑う。主治医の先生からTV電話が入る。ニコニコ笑っている。僕は猛烈におなかが空いてむっくりと起き上がる。歓声と拍手が聞こえる。ふと気づくと僕たちは、葡萄を一房ずつ手にしていた。それを頬に寄せ、いつくしむように一粒、また一粒と頬張ってゆく。お湯のように温かく甘いものが頬にあふれてくる。こんこんと、人のカタチをした紫の泉になって、僕はゆっくりと立ち上がる。かみ、とやら、が、睫のところに引っかかってジタバタしているようだ。僕の瞳も泉になる。かみ、とやらは瞳の中を流れて浮かび上がり、したたり落ちる雫とともにゆっくりと、どこかの高みへ、登ってゆく。ハロー、ハロー。ありがとう。また、会おう。
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