ポイントのコメント
[アラガイs]
小雨は止んでいた。盛り上げた土砂に管はそのまま置かれ(がしゃりがしゃり)慎重に歩く。草履のあしおとが鳴る度に怯えるのが嫌だった。 薄暗くなってここを通り抜ける先は、きまって狐の目が赤白くぼんやりと光って見えるからだ 。 石段を挟んで奥の境内から外灯の薄明かりが延びてくる。それがちょうど狐の窪んだ顔を歪めるのと同じように、木々の影は台座の足元にゆれる。 幼い頃から良太にとって夜の境内は魔物の棲家なのだ 。 急いで立ち去らなければならない。境内を囲む柘植垣をすぎると、良太のしなやかな足下は土手の溝を一気に飛び越えた 。なまぬるい汗の粒が下腹部の脇から膝もとへ滑り落ちた。それにしても叔父がやってくると姉はいつも用事を申し付ける 。叔父は坊主坊主となれなれしく呼び捨てる。そのかわり姉のことは何故か名前で呼んでいる。聞かれては不味いことでもあるのだろうか。ぐしゃぐしゃになった風呂敷包み抱えて良太は考え込むようになっていた 。誰もいない暗い幽道を照らす足音。辺りの静けさに、考えれば考えるほど、網に絡まりあたまはくらくらしてくる。問屋の軒先にたどり着くには、まだ少し迷路を歩いていかなければならなかった。…… ………………………………………建物から反射する陽射しが眩しい。ちぎれた雲が消えてはすぐに生まれる。空港を後にすると街はいまだ喪に伏していた。先を読むようにカレンダーの数字は汗をたぎらせている。それはあまりにも衝撃的な突然の電話だった。あれから眠るために何杯グラスを口にしただろうか。停止していた思考が次々と息を吹きかえし、予報ではこの日テキサスは夏一番の猛暑になるらしかった。???例によって訝しげなフロントの目線は気にしない。彼らはよそ者を事件記者か刑事に見立てているだけだ。タクシーの運転手は客を一度視たきりで、街を歩く人々の目線も互いを避けている。 まるで自分たちの身近な独りのうちに犯人が存在しているかのように…。思わぬ人物の登場は世界の秘密を独り占めにしてしまうのか。時計の針は引き戻されてしまう。胸の高ぶりは押さえきれなかった。(そうだ、そうなんだ)、よくよく考えてみれば不思議とつながってくる。なぜオズワルドがJ,ルビーに殺されなければならなかったのか 。シャワーを浴びるハモンドのたくましい身体から泡は滝のように流れ落ちていった。 Msケイトとの待ち合わせにはどこを選ぶべきだろうか。まさか事件に複雑な三角関係が絡んでいたとは誰も知らない。二人にはまだ隠している秘密がきっとあるはずだった。。ここは慎重にことを運ぶべきだろう。彼は興奮と不安とにアメリカの将来を思い巡らせていた。バスタオルをベッドに放り投げると、真新しい下着と38口径のピストルを鞄から取りだした。(珈琲はいつもとは違うモカにしよう) すばやくカーテン開き階下を覗いてみた。眩しい日射しが部屋を斜めに過ってくる。教会の鐘は鳴らない。立ち上がる煙りはガスの香料に酸化され、まだ人々の往来は少ないようだ。(今日は特別な汗をかくだろう) 唇が微妙に歪む。ハモンドにはそんな予感がしていた 。 ※改訂あり
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