聖母子像/天野茂典
聖母子像
霧のなかをわたしは母の手に
ひかれ ながれるもやの
街道を歩いていた
それは途方もないかなたへの
流離譚のようにおもわれた
母が世界の蔦のように霞みながら
やさしくわたしの手をひいている
あいまいな時間のなかで
確かなものはなにもなかった
おさないわたしと母だけが
ピンのように止められて
明るいハレ−ションを起こしながら
独楽のようにゆれていた
わたしたちは録音されないテ−プであり
記録されない映像だった
この霧のなかでわたしたちは逸れてしまった
もやだった 街道は乳のように隆起していた
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