黄金仮面/佐々宝砂
 
っかり乾いてひびわれた。
なまめいた生き物たちはもういない。
ただ生き残った数匹の蟻が断末魔の痙攣をしている。
打ち上げられたまま赤錆びた船がつくるわずかな影のなかで。

金色の砂が降り積もってゆく。
静かに。確実に。
ああ、もしかしたら、ここは海の底なのかもしれない。
だからこんなに静かで。
こんな静かなまひるならば、
きみに告げることができるかもしれない。

 沈んでゆく。
 きみの手の届かないところに。
 だからさようならと言いたかったのだけれど、
 さよならを告げる資格さえもないようなのだ。

きみはなおもステッキで空を打っている。
金色に塗りつぶされた明るすぎる海辺で。



(連作「中有の物語」より)

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