深夜高速/イグチユウイチ
亡霊の色をしたヘッドライトが、だらしなく
光る尾を断ち切れないまま、23時の速度を更
新していくこの瞬間に、ハイウェイですれ違
う時のスピードで、出会って、触れて、離れ
ていく二人を、ストロボライトで切り取ろう
とシャッターを切り続けるお前は、気休め程
度のスローモーションを永遠と呼んで憧れて
いる事に気付かないまま、世界が多重スライ
ドしていく美しさだけを万華鏡で閉じるため
にもがいているようで、この指をかすめて飛
ぶ気流が、例えば、羽や、音圧や、光の筋に
さえなれる事をいつになっても信じようとし
ないから、俺は今もスピードを求め続けて、
お前は今でも瞬間に焦がれ続けて、亡霊にな
った俺の手は体をすり抜けて、いつまでも、
いつまでも、お前を抱きしめる事ができない。
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