疑似定刻/人形使い
人は拒まれる。
抽象された情緒の青い彫塑は許される。
(こうして日々、誰かが使い捨てた心の起伏は連れ去られ、忘れ去られる。)
私は許される。
(おそらく私もまた忘れ去られるだろう。)
人影が、夕暮れの難民たちが置き去りにされ、遠ざかり、薄闇の底に飲み込まれてゆく様子を、私は窓に張りついて、首を長く伸ばし、食い入るように見つめていた。
また、町はずれの空き地では一縷の影法師が独立の歓喜に長く伸びた手足を波打たせて踊り回る様を見た。
夕日の重力に引き摺られて歪んでゆく世界。
やがて何もかも吸い込まれて虚ろがやってくるだろう。
そしてこの言葉は流れに刺さる細く長い最後の棹に、虚ろを吹く風の止まり木になるだろう。
吹き抜けてゆく虚ろに似た風に身震いをする。
私は夕方の廃アパートの崩れたブロック塀の隙間から、もう一人の黄金の私の小さな背中を見ていたのだった。
身を起こし、ひゅるひゅると吐き出した、老廃した細長い息はつむじ風になった。
歩き出し、アスファルトにこすりつけても影が剥がれることはなかった。
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