無人列島/岡部淳太郎
 
めて
恐怖の表情を浮かべたかと思うと
次の瞬間には
鼻を指先でつまんで
自らも橋の上から泥の川へと
跳躍した
そして列島は
人の在庫が底をつきはじめ
新しい朝がその上に広がろうとしていた

やがて 朝
この列島の最後の群集が
泥の川に身を投げた
彼等は泥水にもまれながらも
まだ呼吸を繰り返していた
だがそれも海にたどりつくと同時に絶えるだろう
そして彼等の瞳はその瞬間に
限りない歓喜に輝くだろう
もはや都市にも 村にも
人はなく
うち捨てられた家畜が
所在なげに歩き回るだけで
列島はまったくの無人と化した
ひとりの夢を助ける力も
それをうち砕く力も
人とともに海の中に消えた
何かが焦げたような臭いがする
彼等はそう言い残して去ったが
その臭いは彼等の細胞から発していたのだ
焦げた細胞の命令に従って
彼等は海へと回帰した
そして宇宙のある座標から
巨大隕石がやってきて
この列島の火口をえぐった
山は火を噴き上げ
地は揺らいだ
海は
一億人を呑みこんで
高らかに 笑った




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