安全剃刀/佐々宝砂
 
寝ても覚めても
と言ったら嘘になるので
覚めているときに話は限定されるが
覚めているときは
いつも
同じことばかり考えている

眠る私はきわめて自由で
木製の魚にまたがって
月まで飛んでみたりもする
誰だかわからない人と手に手をとって
うすむらさきの夜空を滑空したりもする
そこにあのひとは出てこない
出てきたことはない

逢いたいひとは夢にすら出てこない
見たい風景は記憶のなかにすらない

大切なことは
大切なことだけは
話せない

甘すぎるカクテルはどうしても飲めない
鼻をつまんで喉に流し込んでも絶対逆流する
だから
特別に苦いライム皮すりおろし入りジンライムちょうだい

今度逢ったら言うことにきめて

私は夜のベッドで飛翔する
ひとり
自由に
あのひとを遠く地上に残して



   グループ"四文字熟語"
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