携帯電話/Keico
月も沈みかける頃
目を開いた私は
黒い電気糸に繋がれた
冷たい機械に手を伸ばす
春独特の憂鬱な症状と
一週間前からこびりついている
心の霧に悩まされ
また例の機械に手を伸ばす
安心感から眠りを得ようと
黄緑色に光るボタンを
伸ばした爪で押してみても
霧ははれないさ
むしろ曇っていく一方で
誰に言うでもなく
機械に「ばか」と呟き
布地を体に巻きつけて
少しばかり泣けば
ようやく夢への一晩限りの旅が始まる
今夜もまた
安心ではなく
涙を連れて目を閉じ
旅先で貴方に会えるのを
願う
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