携帯電話/Keico
 
月も沈みかける頃
目を開いた私は
黒い電気糸に繋がれた
冷たい機械に手を伸ばす

春独特の憂鬱な症状と
一週間前からこびりついている
心の霧に悩まされ


また例の機械に手を伸ばす


安心感から眠りを得ようと
黄緑色に光るボタンを
伸ばした爪で押してみても


霧ははれないさ
むしろ曇っていく一方で


誰に言うでもなく
機械に「ばか」と呟き
布地を体に巻きつけて
少しばかり泣けば
ようやく夢への一晩限りの旅が始まる


今夜もまた
安心ではなく
涙を連れて目を閉じ


旅先で貴方に会えるのを

願う


   グループ"四文字熟語"
   Point(3)