妄想患者/海月
名前は捨てたと本人は話している
ただ、その時の瞳は野球を見ているので本当かどうか定かではない
実際は本名なんてどうでも良いと思っている
噂話好きのトキさんが傍にいるから話を合わすので精一杯
彼女の口は嘘と本当を交互で話すために嘘か真かの判断が出来ない
だが、息子が同行している時はありのままに話す
さびしがり屋さんと呼ばれている
僕は殺風景な壁紙を一枚爪で引っ掻いた
白い線が斜めについて怒られた
反省はしなかったけど、心に亀裂が走った。
治らない傷と張り直さない壁紙
似ているその姿を見て笑みが零れた
理由も知らないで子供が云った
「あのおじちゃん わらっているよ へんなの」
ヒステリックな母親は子供の口を塞いだ
だけど、意味がなかったのは言うまでも無い
母親は子供を頭ごなしに怒った
「気にしてないですから、」
と、皮肉交じりで僕は言った
僕の名前はその日は呼ばれなかった
次の日もその次の日も呼ばれなかった
二週間後に往診に来た先生はこんな事を言った
「妄想が激しいですね」
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