君の街まで桜色のバスに乗って/はじめ
 
幻聴が聞こえてきた
 人々を吐き出すバスは少しずつ元の大きさに縮んでいくように見えた
 幻聴を堪え 足早にバスを降りる
 死んだ君と生きている君の声が聞こえる
 無事に病院に着いた僕は安心して診察券を看護婦に渡し
 いつもの椅子に座る
 本棚から『ノルウェイの森』を取り出して読む
 「…さん」
 名前を呼ばれる
 僕は診察室へ入っていく 君の声が聞こえなくなる

 薬を貰って帰り道に君が眠っている海の見える丘の墓へ向かう
 僕の両手は震えている 早く薬を飲まないといけないようだ
 海の香りに包まれながら風に吹かれて花束を墓へ添える
 久しぶりの来客のせいか墓の表面は少し汚れていた
 丁寧に拭いて祈りを捧げ丘を下った
 始発場からまたバスに乗る
 染井吉野のトンネルを通って君の街を去る
  グループ"君の街まで桜色のバスに乗って"
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