向かいます/狩心
 
人の波に揉みくちゃにされながら 私が運ばれていきます。
会社のドアは堅く閉じられていて 仕方なく長い梯子で 三階の窓から侵入します。
社長のデスクの前に立ち 社内全体に響き渡るように大声で叫ぶのです。 
社長 私 会社辞めます。
しかし今日は休日なので やはりここには誰もいないのです。
居ても立っても居られなくなった私は大通りに出て タクシーを捕まえます。
トランクの中に乗せてください。
私は暗闇の中 車の走行音と恐怖だけを握り締め 空港へ向かいます。
空港のチケット売り場で 隣り合った二人分の席を購入し 時を待ちます。
搭乗時刻になり 荷物は何も持たず 飛行機の中へ向かいます。
最大限に後ろまで倒した私の隣の席は 空席のままで 誰もいないのです。
そこに クマのぬいぐるみを置いてみても 思い出すのは過去の事ばかりです。
仕方なく私は飛行機の速度に身を任せ 私の意思とは関係ない運動によって 何もない空虚な空へと向かっていきます。
飛行機の窓から下を覗くと どうやら 会社は見えないようです。
そうですか 今日は休日ですか・・・ そう呟いてみます。

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