無色の人<月夜色の章ー1>/萌歌
その日も私はいつものように
べたべたの人ゴミをすり抜けて、
寂れた路地裏の小さなバーに向かっていた。
行きつけの店で、こじんまりとはしているが、
落ち着いていてなかなか雰囲気の良い店だ。
しかし、何より良いのはそんなことでなく、
客の入りがすこぶる少ないことだ。
マスターには悪いが、私はそこが一番気に入っている。
今日も酷く疲れた。最近は前にも増して気だるい日が多い。
などとため息混じりに考えている間に辿り着く扉の前には
「レインボー」
と、いかにも三流な名前が刻まれ、鈍めに光っている。
私はこれまたいつものように、
「ただいま」
と言いながら重めの扉を押し開けた。
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