掌編小説『しゃしんの女』 〜下〜/朝原 凪人
 
「彼はなんと答えましたか?」

 『彼は』、と言おうとしたとき、『私は』という言葉が重なって出た気がした。しかし女には普通に聞こえたらしい。

「あの人は『僕は生きるために捨てた』と答えたのです。自分の心は生きるためには敏感すぎそのために傷つきすぎた。弱すぎたのだ。だから捨てた。と」

 四本目の煙草を取り出す。灰皿の天使がこちらを睨んだ気がした。次から次へと荷物を持たされて不機嫌になったのだろう。

「それからどれだけの月夜が過ぎたのでしょうか。ある日、わたくしは見てしまったのです。あの人の目に光が宿っているのを。驚きも動揺もしませんでしたが、戸惑いはありました。理解が出来ません
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