◆出逢わなければ/千波 一也
かなしみと出逢わなければいたみなど
ふわり、するり、と流れてゆくのに
よろこびと出逢わなければ涙など流れなかった
ぱさぱさとして
いつわりへ戻りはせずにここにいる
まぼろしはもうよみがえらない
ほんとうを疑うためにここにいる
むなしきものを固くいだいて
雨のなか星をもとめてひとの手は恥ずかしそうにあいさつをする
星のした船を砕いてひとの目はあしたをさがす、きのうのうえで
船のそこ砂をねむらせひとの背はゆめのかたちとなおはぐれゆく
あの海と出逢わなければつばさたち、孤独をめぐる綿ごみだった
あの空と出逢わなければさかなたち、言葉をにげる道化師だった
つめたさと出逢わなければ
にくしみもうらぎりごとも火であったのに
ぬくもりと出逢わなければ
やさしさの陰も日向も知らずにいたのに
わたしたち、出逢わなければどこまでも
わたしたち、ではいられないのに
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