降り来る言葉/木立 悟
 


ひとり ひらく 夕暮れの手のひら
灰色の高みの
氷のような雲から
午後を
午後を と
つぶやくもの


ゆくえ知れぬその手に
裂けた花をのせれば
はじまりはよみがえる
空は無数のはばたきとかたむき
空は無数の空の一粒
空は無数の音の遍歴


水彩の空に生まれた
青と緑のあつまりが
立ちつくすものに微笑んでいる
なにもかも かくすところなくひらき
微笑んでいる


短く切った髪の夜明けに
光の糸をたぐりたどれば
心はよみがえる
かがやきつかれた かたちのない星座が
生まれてはじめて海に語りかける
  見えない雨や
  見えない雪
  あなたのなかにある
  見えないすべての水がいとしい
音だけが静かに
かたわらをすぎてゆく


風のない日
涼しい花のように降り止まない雪
雪の他はなにもない美しさのなかを 
泣きながら
ひとり空を見上げながら
ひろく ひろく
ゆがむほどひろい光のなかを歩いてゆく




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