降り来る言葉 LXVI/木立 悟
 
屋根という屋根
すべて異なるしるしを残して


聞こえない荒れ野が聞こえるとき
夜は別の陸地へと去り
径は小指の動きに泡立つ
つづかない橋 流れに
突き立つ橋


茎は茎を行い
花は花を行う
氷室と蝙蝠
晴れた日の雨のにおい


水没した都と平行に
ひとつの部屋が飛んでゆく
泥のような人間と
水草のような人間が
中洲に集い 結ばれる


日常は焦げ臭く
歯の鈴を鳴らす
飛沫は宝石
終わりたくても終われぬ光


はにかみと白
声の響きで変わるいのち
双つの影がゆうるりと
川辺を曲がり 消えてゆく


午後が夜を喰み
残された径には
常に冬の猫が居て
片目の泥を爪弾いている






















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