春の葡萄/たりぽん(大理 奔)
夜の長い季節がめぐって
今年もまた
潤んだ果実の薄皮が
あなたの細い指先ではじけて
枯色の穂の律動
その春のようなくちびるに
すべり込むのです
かわききった大地で
砂に洗われながら
わずかな想いの湿りを集めて
失うことのおそれを酸味にかえて
あこがれる力を甘みにかえて
鈍色の夜の鈴音
その春のような口元で
はじけるのです
時が流れるものだと
誰が思いこませたのでしょう
薄皮で隔てられた
小さな、ちいさな体内で
わずかな想いの湿りを集めて
永遠にしようとした時を
その春のような
くちびるに
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