さかな。/佐々宝砂
つついた。
すると小鉢からにゅるり現れたのは
小鉢には収まりきらないような
大きな大きなマグロの頭で―――
あまり鋭利でない刃物で切られたらしい切り口から
でろんと茶色い内臓が下がり
丸い目玉は白く濁り半ば腐って悪臭を発し
しかもそいつは―――
にやりと笑った。
肉じゃがを煮た嫁さんは
そんなことあるわけないでしょう気のせいよ、と
明るく笑って亭主を仕事に追いだした。
そうよ、魚が笑うもんですか。
マグロなんてあんな莫迦な生物が笑うもんですか。
魚ってのは無表情なものよ。
ねえ?
海草の髪を持つ母親と
魚の顔した息子は
一つ屋根の下
楽しそうに笑いあった。
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