小箱/千波 一也
 


おかえりなさい、が あったのだよ

ひらけば其処に
おかえりなさい、が あったのだよ


そとから帰って
よごれた手も洗わずに

とってもとっても
温かかったのだよ



このごろは少し、
ふたがキシキシと音を立てていたね

器用ではなくとも
少しくらい 触れておけば良かった



夜のボタン、のかけらが この手にひとつ
あるような気がするよ

夜風に震える指先なんかでは
とてもじゃないけれど上手くは掛けられないよ

宙に伸ばしたこの腕は
帰る先を一つ、うしなってしまった
だろうか ね



おかえりなさい、が あったのだ
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