海の匂い/千波 一也
 


      触れあう唇の柔らかな音と
      つかのま離れるその音の
      連続と

      指先と首筋と背骨の手触りと

      鈍い光を放っていた缶コーヒーの
      おぼろな形と銘柄と

      そういうものを覚えている


      果てしない世界の片隅で
      ふたりはおなじ
      海だった



湿度の高い眠りのよるに
海の匂いがよみがえる

寄せては返す波たちの在るべき場所の
海の匂いがよみがえる



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