武士と猫/佐野権太
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(それっ、かかれ、回り込むのだ!
(ええい、何をしておる
(総懸かりじゃ!
(法螺(ほら)を鳴らすのじゃああああ!
人垣を掻き分けて
前に出ようとした刹那
屈強な若者に襟をつかまれた
**
匂いを辿ると武士だった
弁当に箸を突きたてたまま
対岸の薄(すすき)が順番に傾いてゆくのを見つめている
にゆぅーと甘えると
白い飯と煮大根が蓋によそられた
首を伸ばして、しゃくしゃくいただく
*
転んだ幼子
母親が駆けよるより早く
腰を浮かした武士を
背中で感じていた
*
雲が流れてゆく
変わってゆくかたちを追いかけて
ぼんやり、鳴いてみる
厚いぬくもりが耳をたたむから
目をつむらずにいられない
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