そうやって春は来た/ベンジャミン
 
はずむように近づいてくる
あなたの息は白くない

コートは着てこなかったよ
と言って肩をすくめる姿は
想像よりも少し小さく見える

はじめましてとはじめましてがぶつかって
どういたしまして

それからの会話はあまり覚えてなくて

ただ
あなたの視線を追い駆けて
見つめた先の景色が見つめ返してくるようで
それが眩しかったのを覚えています

三月ですから

話しかけたら開きそうなつぼみとか
語りかけてきそうなふくらみのこととか
一生懸命に説明していたような天気の良い日でした

二つの影が並んで歩いて
いつまでもさわれそうな距離にあったから
いつの間にか帰る時間になっていました

さよならとまたねがすれ違って寂しさになり
けれど次の約束が慰めてくれたから
夜風は寒くありません

あなたの乗った電車の後ろ姿を
見送る先に見上げた星の光が
いつまでもぼんやりと輝いていた

やわらかい眼差しで
あげたままの手のひらを恥ずかしがる

さよならをしたのは冬という季節でした


   
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