もう一人のアダム/なかがわひろか
側にあったリンゴを食べたけれど
全く同じ二人だから
なんにも恥ずかしくなかった
そのリンゴが禁断の果実だったということは
後で知ったけれど
そもそも頭が良くなかったから
何が禁断か分からなかったし
後で言われたことだから
神様も
怒るに怒れなかった
神様は
優秀が故に羞恥を知ってしまった
優秀な方のアダムとイブを
嘆いた
同じ顔と
同じ体を持った
アダムとイブは
何の事件も起こさないまま
当然のように
交尾も知らぬまま
子も造らぬまま
そのうちに
死んだ
世界では
優秀な方のアダムとイブが
子を造り
歴史を造ったけれど
同じ顔と
同じ体を
持った
出来損ないの
アダムとイブのことは
神様が己の汚点と知り
恥ずかしがって
聖書から消した
もう一人のアダムと
そこから生まれたイブのことは
酔っ払った神様が
口を滑らしたときにだけ
聞くことができた
(「もう一人のアダム」)
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