今はただ不幸せの花が開かないように/大覚アキラ
真夜中に
車を走らせて病院に
きみを隣に乗せて
きみは知らないかもしれないけれど
真夜中の病院というのは
何度来ても落ち着かないんだよ
物音一つしないのに妙に騒がしいんだ
救急窓口の前の薄暗い廊下で
ポツンとひとりベンチに腰掛けて待つ
わずか十分ほどの時間
ぼくの頭に浮かぶのは悪いことばかりなんだ
たとえば
さっき車の中でのどうでもいいような会話が
もしかすると
きみと交わした最後の会話になるんじゃないか
とか
対向車のライトに照らされた助手席のきみの
痛みをこらえながらのつらそうな笑顔が
もしかすると
きみが見せてくれた最後の笑顔になるんじゃないか
とか
そんなふうに
ぼくの頭の中で
不幸せの花が次から次へと開こうとするのを
必死でむしり取っているんだ
たぶん
今
悪魔が現れたら
ぼくはいとも簡単に
取引に応じてしまうだろう
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