刀自の刃/蒸発王
名刀と間違えられるでしょう
夫はなまくら刀ですぐに刃こぼれしてしまう
どうしようもない人だった
けれど
其の零れた刃の欠片が
未だ
私を貫いたままなのです
もう刃(おっと)を持たぬ鞘だけど
この身に刃を灯して
生きぬいていきたいのですよ
冷や汗が
出た
白髪混じりのうなじの先から
赤く色づくつま先まで
彼女の全てが
黒光りする見事な漆の
鞘に見え
薄い唇が
きゅっと引き上げられ
鋭利な白い刃をかたどった
名刀だ
細められた
黒目の奥
確かに灯る
刀自の刃の光を見た
『刀自の刃』
前 次 グループ"【女に捧ぐ白蓮の杯】"
編 削 Point(7)