刀自の刃/蒸発王
 
名刀と間違えられるでしょう

 夫はなまくら刀ですぐに刃こぼれしてしまう
 どうしようもない人だった

 けれど

 其の零れた刃の欠片が
 未だ
 私を貫いたままなのです

 もう刃(おっと)を持たぬ鞘だけど
 この身に刃を灯して
 生きぬいていきたいのですよ



冷や汗が

出た



白髪混じりのうなじの先から
赤く色づくつま先まで
彼女の全てが
黒光りする見事な漆の
鞘に見え


薄い唇が
きゅっと引き上げられ

鋭利な白い刃をかたどった


名刀だ


細められた
黒目の奥

確かに灯る




刀自の刃の光を見た



『刀自の刃』
 



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