影さやかな月のもと/佐々宝砂
駱駝は人手に渡してしまった。
少しの水と、一日分の糧と引き替えに。
だから二人の娘は手をつないで歩いた、
月下の沙漠は、
はろばろと二人の前に広がっていた。
邪恋の娘ども、と囃し立てられ、
馴染みの館を出奔してまだわずかに五日。
困憊した二人の娘は、
もはや明日の身過ぎに思いを巡らさぬ。
明月の価は千金、無一物の娘たちを照らせばこそ。
二人の面差しは双子のように似通い、
魂は一つの鋳型から生まれたかのようであった。
かほどに同じい魂が、
何ゆえ器をたがえているのであろうか。
いかなイフリートの悪戯であったろうか。
幸いの星サダァル・スードは姿を見せぬ、
月光が星ぼしを霞ませてしまった。
影さやかな月のもと、
よるべなき娘たちは互いに身を寄せ合い、
相似た腕で相似た胸をかき抱いた。
月が魔法をかけたのであろうか、
否、月が魔法を解いたのであろうか。
今や二人の娘は二人ではなかった。
娘は一人きりで月下の沙漠に佇んでいた。
面をあげて、無慈悲な月を見つめた。
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