ひきてゆかしむ/佐々宝砂
)がよいと思った。
何人もの村人が河童にとられたと聞く瀞、
大人でも背が立たず底は竜宮につながると聞く瀞、
深い紺の水を静かに湛えるその瀞のほとりには、
一本の若い杉が根をおろしていた。
熱を孕んだ期待の視線が少女の背を灼いた。
少女にできることは一つしかなかった。
榊を口に咥え合掌し瀞を見つめた。
*
朱なる袴をりんと穿き
白き単衣(ひとえ)をりうと着て
杉と契りしむすめごが
瀞にその身を投げたれば
一天にわかにかき曇り
篠つく雨となりにけり
一味の慈雨となりにけり
前 次 グループ"Light Epics"
編 削 Point(4)