ひきてゆかしむ/佐々宝砂
 
おそろしげなる杣人(そまびと)の
十人かかりて動かせぬ
切り倒されし杉ありき
杉と契りしむすめごが
赤き襷をきりと締め
えいやと綱を引きやれば
やれかなしやと大杉は
するりするりと動くなり

   *

巫女になるしかないのだろうなと少女は思った。
少女は神の妻となったわけではなかったのだが、
ただ通ってきた男を慕っただけだったのだが、
杉の木を運んだあの日から、
村人たちは日夜少女の家に押しかけ、
少女の言葉を求めて戸を叩いた。

誰もいない夜半少女は目覚めて記憶を反芻する。
背の高い男だった、六尺はあった、
その身体からはいつも青くさい匂いがした、

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