逆巻く酒巻/佐々宝砂
。酒巻の住まいは東海地方の海端にあって、遊泳禁止の海には大きな渦潮こそないものの小さな渦がいくつもありウドと呼ばれていた。おそらく渦が訛ってウドとなったものだろうが、酒巻は学生の頃そのウドに巻き込まれた経験があった。あんな経験は二度とごめん、と思いはしたものの、逆巻くと決意したのだ、酒巻は海パンを穿きまだ肌寒い六月の海辺にまで車を飛ばした。曇りがちな空の下、遊泳禁止の海に人気はない。どぼんと飛び込むと死にそうな気がしたのでおそるおそる足をいれた。鳥肌を立てながらずぶずぶと進む。ほどなくウドに巻き込まれた。脚と首のあたりで流れが違う、息継ぎがひどく難しい、死にそうな気がする、俺は逆巻いているのだろう
[次のページ]
前 次 グループ"Light Epics"
編 削 Point(5)