ピュグマリオン/佐々宝砂
1.
青みはじめた空気のなかに
屋上がある
どごおんどごおん と
風が啼いていた
それは歌でも言葉でもなかったけど
確かに何かがわたしを呼んでいた
太股にナイフをあてる
出血はなく
皮膚の裂け目から内部が覗く
青光りする金属とプラスティックと
シリコンと半導体とチップと
ほんのわずか油脂の臭い
これが
わたしだ
あたりは夜に沈んでゆく
赤外線も紫外線もなんならX線も
見ようとすれば見えるのだけど
目を慣らさぬまま
無闇にナイフを突き刺す
胴体部分が損傷して
わたしはまっすぐ立てなくなる
ひとり遊びは
もうやめる
夢見られて
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