東海道線東京発各駅停車のバルタザール/佐々宝砂
チョコレートの頬に人なつこい笑みを浮かべて
バルタザールは僕に訊く
贈り物は何がいいだろうね
それとも私はただ礼拝すればよいのだろうか
右を見ても左を見てもビルで僕は息苦しく
黒い指にはまった指輪のみどりの石を見る
バルタザールの問いに答えるためには
聖書外典以外の嘘を研究する必要があると思う
ほどほどに混み合った車内を
無表情な車掌が通り抜ける
バルタザールはなお微笑んで僕を見つめ
辛抱強く僕の答を待ち続ける
僕は眠りこんだふりをする
無言のうちに時間も風景も流れ過ぎる
大きな観音像が一瞬みにくい顔を見せたあと
線路は海沿いを走ってゆく
バルタザールは
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