四行連詩 独吟 <刻>の巻/塔野夏子
 
ながら

     *

月が鋭角化する刻限
白黒市松のなめらかな床の上
帽子と仮面と外套をつけた一団が
何処からともなく出現する

     *

散乱したい
散乱したい
仮象の空間に吊された白い部屋で
無機質な断片となって

     *

南の出窓に腰掛けた君と西の壁に凭れた私の
交わす言葉はどうにも宙にさまよいがちだ
どうやらこの部屋が部屋であることに飽和して
こっそりと無辺際への溶解を試みているのだ

     *

夜明けに溶けだす空の縁から
溢れだす青白いビブラート
そよいでゆく光に身を浸せば
幾千ものデイジイが笑いさざめく

     *

どんな時を計るのか
知らないままの無邪気な手が
闇の粒子を封じ込めた
砂時計をひっくり返す

     *

寄せては返す 無意識の波に
洗われつづける 意識の岸辺
予感から盗みとった 謎の記号を
ひそかに刻印したのは どの岩にだったか





  グループ"四行連詩 独吟"
   Point(10)