四行連詩 独吟 <模様>の巻/塔野夏子
つめている私がいる
*
冬の夕暮れの原だった
青い雲が 薄いグレイの空に
大きな花模様を描いていた
去りゆく人のための書き割りのように
*
書き割りは 黒い幕の後ろで
待ち続けている いつかはじまる
一度きりの夢のような芝居のために
世界を抱いて 守りつづけている
*
世界の向こう側 濃紺の宙の彼方
なかば透きとおるように 仄かに青く浮かぶのは
はるか未来に 僕らが生まれた都市
そしてその上を しずかにめぐる散開星団
*
いくつものビルディングから
窓たちが次々と身投げする
そのあとを追うように 過去の記録たちが
街路に暗い雨のように降りそそぐ
*
暗いカタログを繰る指の気配
を感ずるごとに脳裏に明滅する
“Anywhere out of the world”
深淵で薔薇と棘とが微笑んでいる
*
深みに睡る空が
ゆっくりと目をひらく
翼の模様にふちどられた便箋に
綴られた手紙を読むために
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